糖尿病療養指導士が行う運動療法
糖尿病療養指導士が運動療法で行うこと
についてまとめました。糖尿病の方を担当
することになった理学療法士やこれから
糖尿病療養指導士を目指す方、リハビリ
関係の方参考になればうれしいです。
糖尿病とは
血糖値を下げるインスリンの作用不足(分泌不全、
作用の低下)により、慢性的に高血糖となるため
に起こる、代謝疾患群です。
軽症の場合は高血糖に伴う症状
(口喝、多飲、多尿、体重減少)がない場合も
ありますが、重篤な場合には昏睡に陥ること
もあります。
慢性合併症として
神経障害、網膜症、腎障があります。
ちなみに上記の順に症状が現れるため、
「し眼じ」と覚えるんだそうです。
治療は運動、食事、薬物療法の3本柱が重要
となります。
運動とエネルギーの代謝
運動はエネルギー産生に酸素を利用します。
酸素を利用する有酸素運動と、酸素を利用しな
い無酸素運動に分類されます。
運動の強度別にエネルギー源をみていくと、
以下のようになります。
①安静時の筋のエネルギー源はほとんどが
遊離脂肪酸です。
②酸素摂取量(VO2max)の40~60%程度
の中等度の運動では、糖質と遊離脂肪酸の
両者が筋のエネルギー源として利用されます
③無酸素性作業閾値(AT)を超え、運動強度が
高まるにつれ、糖質の利用比率が増加し、
最大運動では糖質のみが筋のエネルギー源
となります。
運動の急性効果と慢性効果
1. 運動の急性効果
代謝調整が良好な症例では、筋においてブドウ糖
遊離脂肪酸の利用促進が起こり、運動後血糖値は
低下します。(食後の急激な血糖値の上昇を抑え、
速やかな低下につながる)
※運動は食後に行うことが重要です。
運動して食べると、急性効果はなくなります。
2.運動の慢性効果
低強度の運動であっても長期間継続することに
よって、2型糖尿病で低下しているインスリンの
感受性(インスリン抵抗性)を改善させることが
できます。
※この効果は3日以内に低下し、1週間で消失
といわれています。
筋力もつき、基礎代謝力も高まります。
3.減量効果
エネルギー摂取と消費量のバランスが改善され
減量効果があります。
レジスタンス運動により、筋力と筋量の増加が
図られ、基礎代謝量の維持、増加に大きな意味
をもちます。
4.その他の効果
高血圧や脂質異常症の改善、心肺機能の向上、
加齢による筋委縮や骨粗鬆症の予防、耐久性
の向上、ストレスの軽減や爽快感の獲得に
効果を示します。
運動強度
・最大酸素摂取量(VO2max)の40~60%程度
(AT:無酸素性作業閾値程度)で軽く息が弾む
くらいの中等度の(有酸素運動)を指導します。
・心拍数に関して、50歳代では115±10拍/分前後、
50歳代以降は100拍/分以内に留めましょう。
患者自身の自覚は「楽である」「ややきつい」
程度で、「きつい」と感じるようであれば強度
が強すぎる運動となります。
・ATを超えるような無酸素運動(「きつい」と
感じる強度)ではインスリン拮抗ホルモンの
分泌が活発化し、肝臓からの糖放出が促進され
るため、血糖値の上昇を招きます。
・METs(metabolic equivalent unit)を用いて
運動強度を表現する方法もあります。
・消費カロリーを計算することも出来ます。
METs×実施時間×体重(㎏)×1.05=消費エネルギー
・歩行は1回15~30分、1日2回、1日の運動量
としては歩行は約1万歩、消費エネルギーとし
ては160~240kcal程度が適当とされています。
・運動、生活活動に分けて生活習慣病の予防
を目標として1週間に23エクササイズ(内、4
エクササイズは3METs以上の運動)以上を
実施することが推奨されています。
運動頻度
週に3~5日程度(なるべく週5日で3日空けない)
行うように指導します。
細切れでも週に通算150分以上の運動を行うと
減量や血糖コントロールに効果的であると
言われています。
運動指導上の注意点
①運動療法を禁止、あるいは制限した方がよい
場合もあるため、運動指導前に問診、診察、
検査からなるメディカルチェックが必要です。
②心血管系のイベントの発生、血糖コント
ロールの不安定化には特に注意が必要です。
運動前中後のバイタルと自覚症状の確認が
必要です。運動前後の血糖測定も有用です。
③インスリン作用過剰状態では、低血糖が
出現する場合があります。運動中、運動後
数十時間の低血糖にも十分な注意が必要です。
運動前の血糖値が100mg/dl未満の場合には
吸収のよい糖質を1~2単位摂取してもらい
ます。薬物治療中の方は必ず食後に運動
します。
④運動前後の水分摂取(15分に1回が好ましい)
により、心血管系合併発作防止に不可欠です。
⑤冬季の屋外運動では心血管系発作防止のため
手、頸部、頭部の保温が重要です。
⑥歩行やジョギングには、踵が厚く足底全体に
適度な弾力性のあるシューズの使用を勧めま
しょう。足部の皮膚の観察(傷、水疱、発赤
胼胝、鶏眼、巻き爪の有無など)も重要です。
⑦運動を行ったあとの空腹感から食物の過剰
摂取を行わないよう、注意しましょう。
⑧荷重関節などに疾患がある場合は筋力強化
練習や水中歩行や椅子に座ってできる運動
など、配慮しましょう。
⑨心拍数100~120拍/分の運動はVO2max50%
程度に相当します。運動強度を増す場合は
徐々に実行しましょう。
⑩血糖コントロール不安定な時は運動強度と
持続時間は控えめにし、血糖値の推移を観察
しましょう。
⑪自律神経障害を有する場合、運動時に心拍
数の増加が認められないことがあります。
心拍数の異常の有無で医師に相談が必要です。
運動療法の開始と維持、援助の
ポイント
・運動は自主性が重要で、「やらされている」と
感じることで継続する気も減退してしまいます。
運動療法の重要性や利益についての理解度を
評価し、不利益や障害となりそうなものを聴取
していきます。
・運動計画は患者さんと共同で作成し、達成可能
と患者が考える範囲で少しずつ目標を増やします。
達成出来れば評価と賞賛をし、継続できる。と
自信を育てていただきます。失敗したときには
冷静に原因(状況や気持ち)について共に考え、
新たな目標をたてます。叱責したり、追い込む
ことで、離脱につながることもあります。
・楽しく継続できているか?頑張りすぎて
燃え尽きないか?評価します。周りに協力者を
得ることも勧めます。ゲーム性の高いもの、
歩数計や体重、血糖値など、数字で判定しやす
いものを取り入れて自身で評価するのも達成感
につながりやすいです。
最後に
糖尿病の運動療法ついて、まとめました。
糖尿病の闘病は長い道のりになります。
私が担当してきた方には
なかなか運動や食事に前向きになって
いただけずに離脱してしまったり、
ものすごく頑張りすぎて燃え尽きて
しまった方が居ました。
しっかりと評価して共に一歩ずつ
進んでいきましょう。とフォローする
事が大切です。
糖尿病療養指導士ガイドブック
と糖尿病治療ガイドに記載されていること
や専門医の講習会などを基にまとめました。
ちなみに筆者は元糖尿病療養指導士です。
元です。
現在は在宅分野で訪問とデイサービスのリハビリ
に主に関わり、療養指導に関わっていないので、
資格更新していません。2013~2015年の資料
をもとに作成しています。詳しい最新の資料と
細かい数値等、異なる点があるかもしれま
せん。参考程度にお願いします。
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